いまさら聞けないCRMの基礎知識③~CRM成功のために必要な「たったひとつ」のこと~

いまさら聞けないCRMの基礎知識③~CRM成功のために必要な「たったひとつ」のこと~

前回のコラム「売上分析とは?Excelでできる3つの分析手法を解説」では、CRMを進めていくための取り組みである「データ分析による現状把握」をご紹介しました。
データが足りない、分析ツールがないといったすぐに解決できない問題は気にせず、一歩目を踏み出すことの重要さをお伝えしました。今あるデータをもとにExcelで簡単に集計できるデシル分析とRFM分析のやり方もご紹介しました。
今回はデシル分析やRFM分析から得られた気づきを活かすための「検証環境の構築」についてお話します。キーワードは『共通言語化』です。 CRMに関するご相談はこちらから

CRM施策を考える前にしなければならないこと

CRM施策を考える前にしなければならないこと

既存データからビジネスの全体像を把握し、課題の洗い出しができたら、課題を解決するCRM施策を実行します。これについては、異論はないと思います。
一方で、「CRM施策を実行したけれど、課題解決に寄与したのか分からなかった」ということは少なくありません。例えば、「メール経由のEC売上が落ちてきたから、回復させよう」というような分析から見出された課題を起点に施策を実行したのに、なぜか効果検証はできなくなってしまう。「いわゆるCRM施策のPDCAが回せていない状態」です。
いったいなぜこのような状態に陥ってしまうのでしょうか?
それは分析結果と施策の狙いが『共通言語化できていない』からに他なりません。

なぜCRM施策のPDCAを回すのは難しいのか?

なぜCRM施策のPDCAを回すのは難しいのか?

このコラムを読んでいただいている方の中には、このようなPDCAが回っていない状況に頭を悩ませている方がいらっしゃると思います。
なぜCRM施策のPDCAが回らないのでしょうか?
その理由として、どのようなことが思い浮かびますか?

  • 仕組みができていないから
  • 指標が定まっていないから
  • ネクストステップがイメージできないから
  • 実行するための体制が整っていないから
  • 準備を含めた運用負荷が大きいから

どれも正解と言えるでしょう。

ただ、ここでもう少し根本的な原因に目を向けてみるとその理由は「社内で共通言語化ができていないから」です。ここでも『共通言語化』という言葉が出てきました。
次のパートで詳しくご説明します。

「共通言語化」から始めよう

マーケティング担当者が直面する、よくある例を使ってご説明します。
「共通言語化」から始めよう

例1 ラストワン施策の実施判断
ECサイトのマーケティング担当者である私は、新たな施策として「残り1点通知施策」を検討しています。
すると、社内から2つの正反対の意見が上がりました。
私はどうするのが良いのでしょうか?

  • 残り1点通知施策:在庫が1点となっている商品をメールにて知らせる施策

▽実施賛成派
・1件でも売上は売上
・メール開封時に在庫なしになってしまっても、配信時には正しい情報を提供していたのだから問題はない
・在庫が少ないことを知らせる姿勢そのものがお客様からの信頼に繋がる


▼実施反対派
・売上は1件しか立たない
・メール開封時に在庫なしになってしまっていたら、売り切れが多いサイトだと誤解されてしまうのでは?
・売り切れ間際の在庫情報をお知らせすることが、お客様にとって有益だとは思えない


あなたが担当者だったら、この施策を実施しますか?
それとも、見送りますか?

もうひとつ例を挙げます。


例2 クーポン施策の継続判断
ECサイトのマーケティング担当者である私は、クーポン施策を実施していますが、今後も継続すべきかどうか悩んでいます。
費用の掛かるクーポンがどれだけの効果を生んでいるのかが分からないものの、止めてしまったら売上が下がりそうで止めることは考えられません。
私はどうするのが良いのでしょうか?

  • クーポン施策:特定のお客様に対して、メールで割引クーポンを配布する施策

こちらについてはいかがでしょうか。
あなたが担当者だったら、この施策を継続しますか?
それとも、中止しますか?

執筆者の見解は以下の通りです。


例1 ラストワン施策の実施判断
どうしてこの施策を実施しようと考えたのか、その整理が重要です。
残り1点となった商品に希少性や高価格などの特異性があれば、みなさんの受け止め方は変わるのではないでしょうか?利益率、在庫管理コストや決算月などの社内事情も同じように影響を与えることでしょう。加えて、賛成派も反対派もそれぞれ感覚的な意見があり、それを正当化する根拠が欠けています。これでは結論を導くことは困難です。
施策そのものの優位性を議論するよりも、まずは「何を成し遂げるための施策なのか?」を明確にしましょう。目的と背景の認識を揃えた上で議論できれば、実施するかどうかの判断は容易に下せるはずです。


例2 クーポン施策の継続判断
こちらも同じように、どうしてこの施策を実施しているのか、その整理が重要です。
目的が『売上の最大化』である場合、クーポンの配布によって売上が下がることは考えにくいので中止の判断は難しいです。一方で、効率性や影響度については考慮する必要があります。このケースではCPAやROIといった指標で評価できるようにしつつ、「クーポン施策を行わなかった場合の売上」と比較することをお勧めします。
『転換率の掌握』を目的とした場合ではどうでしょう?こちらも中止の判断を下せるほどの材料がありません。まずは「新規顧客がどれくらいの確率でリピーターに転換するのか」を分析し、クーポンがなくても買う人の出現率(=純粋転換率)を算出します。クーポン施策によってそれ以上の転換率になるかどうかを検証すれば、施策の有効性を明らかにできます。


どちらの例も目的に則した議論がなされていないので、CRM施策の有効性を判断すべきではありません。

「共通言語化」から始めよう

柔軟な視点を持つことと、明確な判断基準を持つことは大きく異なります。
コップに『半分入っている』と『半分空である』とは、量的には同じです。しかしながら、意味はまったく違います。この状態をポジティブとするのか、ネガティブとするのか、その判断基準をあらかじめ設けておかなければ、次に取るべき行動が違ってきます。水を足すのか、まだ足さなくて良いのか。これが『共通言語化』が意味するものです。


共通言語化』の重要なカギは、声の大きさ(誰の意見か)ではなく、共通理解されているかどうかです。言葉遊びのようですが、共通認識ではなく、共通理解です。CRM施策を立案する際には、現状に対して関係者が同じ目線で、同じ問題意識を持っていることが不可欠です。同じ問題意識の中からさまざまなアイデアが生まれる土台こそが、前回のコラムでご紹介した「データ分析による現状把握」そのものなのです。

CRMに関するご相談はこちらから

CRM施策の検証環境を構築する際のポイント

分析結果から見出された課題に対して目線を揃えることができた(共通言語化ができている状態)ならば、次は検証環境の準備をしましょう。ここでも重要なのは『共通言語化』です。共通言語化された検証環境となるために留意すべき点は以下の通りです。

判断基準の整備

判断基準そのものと判断までの流れを定義する必要があります。


判断基準の定義
ここでも重要なことは共通言語化です。基準を属人化させないことです。
メール開封率30%を目標とした施策において、結果が30.1%だったら、29.9%だったら、それぞれどのように判断しますか?
たとえ0.1ポイントでも上回ったら可とするのか、それとも0.1ポイントは誤差として不可とするのか、ここが揺れてしまうケースはあると思いますが、明確にしなければなりません。大切なことは、誰が見ても評価そのもの(良いのか、ダメなのか)は同じであるということです。
少しチャレンジ的な施策を実施する場合では、基準を「ベンチマーク=クリアすべき数値」「目標値=最大限の目標値」の2つとすることも良いでしょう。


判断までの流れの定義
評価に対する次のアクションを
 K:keep = 良かったこと(今後も続けること)
 P:problem= 悪かったこと(今後は止めること)
 T:try = 次に挑戦すること
の視点であらかじめ定義しておきます。「で、どうする??」と停滞してしまうことを避けることができます。
”思うような評価が得られなかった場合には、それでも続けるのか、止めるのか、それとも改善した上で続けるのか、の視点で議論する”ということをあらかじめ決めておけば、論点が散漫になることはありません。「悪かったら止める」と最初から決まっていれば、担当者が改善案を考える必要はなく、新たな施策の検討に時間を費やすことができます。
これこそが効率を意識した意思決定です。

判断基準の整備

運用体制の整備

判断基準と流れができても、それが運用できなければ意味がありません。運用体制の整備を進める際のポイントは2つです。


レポートの定常運用化
形骸化させなないためにも、

  1. いつ、だれがレポートを更新するのか?
  2. 完成したレポートを誰とどのように確認するのか?
  3. 確認するポイントは何で、何を決定するのか?

を明確にしておくことが重要です。


目標数値の責任者の決定
ここで言う責任者とは、担当領域の明確化の意味合いになります。
数値に対してとことん向き合う人が誰なのか、ということです。
ECサイトを例にすると、
 集客力=セッション数 ➡広告担当、メール担当
 商品力=購入単価 ➡MD担当
 顧客満足度=購入回数 ➡CRM担当
のように置き換えつつ、担当をアサインすると次のアクションに繋がりやすくなります。

まとめ

いかがでしょうか。
どれだけ苦労した分析であっても、共通言語化ができていない状態であれば、それはアウトプットとはなりません。判断基準を整えることは施策の精度の向上や対応スピードの改善に直結し、最終的には売上という成果を生み出すことに繋がります。
判断基準を整備するにあたっては、どうしても知見が必要となるので、外部に頼ることで加速度的に推進させることをお勧めします。経験を積むことに時間をかけるよりも、いち早く取り組む方が大きなインパクトを生むからです。


あなたにはコップの水はどう見えていますか?
まだ半分ありますか? それとも、もう半分しかありませんか?
あなたの近くの人にはどう見えているか、訊いてみましょう。
意外な発見があるかもしれません。


次回は
3.施策の実行
についてお話します。
さまざまな制約のもとで施策を実行する秘訣をご紹介します。


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執筆者

田島 智紀

TAJIMA TOMONORI 田島 智紀

マネージャー

株式会社クロス・コミュニケーション デジタルソリューション部 マーケティングプランニンググループ

総合広告代理店とマーケティングエージェンシーにて、ブランディング、デジタルマーケティング、CRMに従事。また、大手百貨店系ファッション通販会社においてマーケティング責任者を務め、事業会社での経験を培う。
現職では、データ活用を基軸としたデジタルマーケティングの推進から業務プロセスの改善まで事業社に寄り添ったCRM支援に幅広く従事している。