ビジネスシーンにおける生成AI活用事例
AIの世界は日々目まぐるしいスピードで進歩を遂げており、AI技術を活用した新たなサービスや事例が次々と生まれています。近年では、データから新たなコンテンツを生みだす生成
AIが登場し、画像、テキスト、音声、動画などの分野での活用が注目されています。また、実際にビジネス活用を始めている企業も増えてきています。本コラムでは、生成AIの仕組みからビジネスシーンでの活用事例について紹介していきます。
1.生成AIとは
生成AIとは、ジェネレーティブAI(Generative AI)とも呼ばれ、学習したデータをもとに新たな成果物の作成をすることができるAIという意味です。その名の通り、機械学習の手法の一つであるディープラーニング(深層学習)によってAI自身が学習し、条件を入れるだけで想像的なコンテンツを生みだすことができるサービスです。深層学習では、ニューラルネットワークという人間の脳の仕組みを模した方法でデータを処理します。この手法を用いることで、認識精度が飛躍的に向上しました。
機械学習においては、AI自身が教師となる「自己教師あり学習」という手法が用いられます。この手法はあらかじめ答えを用意しておく「教師あり学習」より一歩進んだ方法で、AI自身がデータの特徴やパターンを見つけ出して学習をしていきます。
従来のAIに比べて生成AIがよりクリエイティブな成果物を生みだすことができるのもこの仕組みのためです。
2.生成AIの活用シーン
生成AIは、情報を組み合わせて新たなアイデアを創出したり、データ入力作業などの人間が繰り返し行うとミスを起こしやすい分野の作業を得意としています。これらの作業を生成AIが代替することで人手不足の解消やコスト削減、品質・スピードの向上にもつながります。ビジネスシーンでは具体的には以下のような活用方法があげられます。
- 企画書、報告書、メール文面などの文書の作成
- 文章の翻訳、要約
- 情報の収集、整理、分析
- 企画案の作成とフィードバック
- 設計やデザイン案、画像の作成
- プログラミングコードの作成、デバック
- 音声処理、加工、読み上げ
- チャットボットなどによる顧客対応
3.生成AIツールの種類
生成AIのツールは大まかに下記のように分類されます。ビジネスシーンにおいても既に幅広い場面で活用され、独自の生成AIツールを開発する企業もでてきています。
- 画像生成AI:
希望する画像のイメージをテキストで指示すると、学習したデータの中から新しい画像を生成します。画像の種類もイラスト・写真・アニメーションと指定することができ、雰囲気を伝えるだけで瞬時に数種類もの画像を生成することが可能です。イラストが得意でなくても、簡単に高度な画像を作成することができるサービスです。
ソフトウェア例:Midjourney、DALL・E2など。
- テキスト生成AI:
ユーザーが質問や指示をテキストで入力すると、AIが回答となるテキストを生成します。大量のテキストデータやインターネット上のコンテンツから学習したデータがベースとなっているため、より自然な文章が生成されます。
ソフトウェア例:ChatGPT、Copilotなど。
- 音声生成AI:
音声データを大量に学習させることで、その声質を合成して新たな音声を生成することができるサービスです。学習した音声を用いて、テキスト読み上げやナレーションの生成をすることもできます。感情の起伏や抑揚をつけた話し方ができたり、外国語に翻訳した音声変換をする機能、アニメキャラクターのような声を生成できるAIも登場しています。
ソフトウェア例:Google Cloud Text-to-Speech、Voicevoxなど。
- 動画生成AI:
画像やテキストでイメージを入力すると、短い動画を生成することができるサービスです。音声と組み合わせたミュージックビデオや自然な動きの動画を制作することも可能です。従来の動画制作では費用や時間のコストがかかっていたため、低コスト・短期間で制作ができる動画生成AIはビジネスの現場でもニーズが高まりそうです。
ソフトウェア例:Sora、Pika Labs、Kaiberなど。
4.生成AIの活用事例
それでは、企業では実際どのように生成AIを活用しているのでしょうか。ビジネスシーンでの活用方法について事例をもとにいくつか紹介していきます。
4-1.自社向け活用編
- 社内独自のAIアシスタントを開発(SMBCグループ)
SMBCグループでは、従業員専用AIアシスタントツール「SMBC-GAI」を開発しました。社内専用環境上のみで動作し、専門用語の検索やメール作成、文章の要約・翻訳、文字おこし、プログラミング言語のソースコードの生成が可能なツールとなっています。リリースしてから2秒に1回使われるほど活用されており、グループ全体の生産性の向上につながっているそうです。
引用元:
SMBCグループが独自に生み出したAIアシスタント「SMBC-GAI」開発秘話 - 初期建設設計案のデザインツールを開発(株式会社大林組×SRI International)
大林組ではSRI Internationalと共同で、建設設計の初期段階でスケッチや3Dモデルからさまざまなファサードデザインを提案できるAI技術 AiCorbを開発しました。従来、顧客提案の際に、設計者がアイデア出しからCADデザイン案の作成まで手作業で行っていたプロセスを、様々なデザインを学習させたAI技術を活用することにより、複数のデザインを瞬時に自動で生成できるようになりました。顧客との迅速な合意形成と業務効率化につながると考えられています。
引用元:
大林組、建築設計の初期段階の作業を効率化する「AiCorb®」を開発 - 創薬技術を開発(富士通株式会社×国立研究開発法人理化学研究所)
創薬の開発には、十年以上の長い年月と数百億円規模の費用が必要となります。しかし、臨床試験などを経て実際に承認に至るには0.0040%と成功率が低いことも課題となっています。富士通と理化学研究所は、生成AIを活用したAIの創薬技術を開発しました。薬剤の設計過程で、AIを活用して薬の標的となるタンパク質の形態や構造変化を広範囲に予測することで、このプロセスが従来に比べて10倍以上のスピードで行えるようになりました。研究期間と研究開発費用の効率化につながると見込まれています。
引用元:
富士通と理化学研究所、独自の生成AIに基づく創薬技術を開発
4-2.顧客向け活用編
- チャットBotを独自開発(トランスコスモス株式会社)
トランスコスモスはカスタマーサポート業務の中で、自社の応対ノウハウを活かしたチャットBotを開発しました。ユーザーは、従来のチャットBotでは一つの質問に対して複数回のやりとりが必要だったところを、生成AIのチャットBotを活用することで一回で自然な回答が得られるようになりました。また、オペレーターは難しいお問い合わせに対して、より専門的なスタッフへに引継いで対応していましたが、生成AIに質問をすることで時間をかけずに回答を得られるようになりました。この技術の導入により、ユーザーだけでなく、オペレーターの負担軽減にもつながっています。
引用元:
トランスコスモス、企業と顧客接点のCX最適化を実現するDXプラットフォームに生成AIチャットBot「T-GPT」を追加
- コミュニケーションセンターの応対メモ自動作成(明治安田生命保険相互会社)
明治安田生命保険のコミュニケーションセンターでは、年間55万件のお客様からの問い合わせを受け付けており、通話終了後に照会内容を要約した応対メモを手作業で作成していました。独自に開発した、通話のテキストデータから応対メモを自動作成するシステムを活用することで、メモの表現も統一され、業務にかかる時間が30%削減される見込みです。
- 美容アドバイスアプリケーションによる肌診断(ロレアルグループ)
ロレアルグループでは、Beauty Geniusという生成AIによる美容アドバイスアプリケーションを開発し、ユーザー一人ひとりに合わせた診断とアドバイスを提供しています。対話型インターフェースによってユーザーが質問を入力したりや肌の画像をアップすると、その日の肌の状態に合わせた最適な美容法を提案し、おすすめのメイクや化粧品を画像とともに提示してくれます。この機能によってユーザーの購買意欲につながることが期待されています。
- 小学生親子向け「自由研究お助けAI」を開発(株式会社ベネッセコーポレーション)
ベネッセコーポレーションは、小学生向けに安心・安全に配慮し学習向けに独自開発した生成AIサービスを開発しました。生成AIキャラクターとのやりとりの中で、自由研究のアイデアやテーマを見つけるヒントが提供されます。答えをみつけるのではなく、自ら考える力を養うナビゲーションになっています。事前に生成AIの使い方といった情報リテラシーの動画で学ぶ機能もあります。
引用元:
ベネッセ、小学生親子向け生成AI サービスを7/25 から無償提供
5.導入時のリスク
生成AIの導入にあたっては、リスクも把握しておく必要があります。海外では、生成AIによる著作権侵害の訴訟や情報漏洩の事案も発生しています。
機密情報の漏洩
ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)では、ユーザーが入力した情報を学習データとして活用するため、入力した情報の履歴が学習データとして使われ、他のユーザーに表示される恐れがあります。そのため設定時に履歴を残さないようにする必要があります。機密情報や個人情報を入力することも情報漏洩につながる可能性があり、企業によっては情報漏洩を防ぐため、社内でのChatGPTの使用を禁止し、独自の社内用生成AIツールを開発する動きもあります。
著作権侵害、商標権侵害
大規模言語モデル(LLM)では膨大なデータを学習させています。この学習データの元は、インターネット上のウェブページ、テキストデータ、ニュース記事、論文などで、多くは著作権の許諾なく使用されています。アメリカでは、ニューヨークタイムズ社が、自社の記事が許諾なく使用されたとしてOpenAI社を訴えています。日本では、日本新聞協会が複数の記事が転用されたとして事業者に許諾を得るよう求めるとともに、政府に法整備を促しています。
ディープフェイクの悪用
ディープフェイクとは、生成AIにより実際に存在しない画像や動画を作成する技術のことです。この技術を悪用し、著名人が実際に発言していない内容をフェイクニュースとして流し、誤った情報が拡散される恐れがあります。また、ディープフェイクにより特定の人物になりすまし、詐欺や機密情報の搾取に悪用される危険性もあります。一目ではフェイクと気づかないほど精巧に創作されているものもあり、注意が必要です。
偏ったアウトプット
学習データの量が少なかったり、内容に偏りがある場合、生成AIによるアウトプットも自然と倫理的に不適切になる可能性があります。アウトプットが不完全だったり誤りを含んでいたとしても、生成AI自体は判断機能をもちあわせていないため、生成AIのアウトプットをうのみにせず、最終的には人間が内容を精査して確認する必要があります。
6.まとめ
このように、生成AIの技術は今後も日々進化・発展していくと考えられます。日常生活の中でも実際の活用例やサービスを目にする機会が増えてきており、更なる活用の場面が広がっていくことでしょう。活用例でご紹介したように、ビジネスの場面で適切に取り入れることで、仕事の生産性効率化と新たなビジネスチャンスの創出にもつながる可能性は大いにあります。変革のために、生成AIを正しく理解し、自社の業務やサービスにも取り入れて有効活用してみませんか。