日本と世界(アメリカ)のITエンジニア採用最前線

日本と世界(アメリカ)のITエンジニア採用最前線

DXや、メタバース、Web3.0等の新しい技術が日々誕生する中、ITエンジニアに対する需要は日々高まっています。経済産業省の調査では、 2030年には IT人材は おおよそ45万人(シナリオによっては最大79万人)の不足が見込まれ、各企業は優秀なITエンジニアを自社で抱えておく必要があります 。今回のコラムでは、 日本と海外の双方でエンジニアとして活動してきた筆者が、日本とアメリカでのITエンジニアの採用状況の実態や、採用のミスマッチをどのようにしたら防げるのかについて解説をしてきたいと思います。

 IT人材需給に関する調査

出典:経済産業省 『 IT人材需給に関する調査』 P.20 2019年3月https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/houkokusyo.pdf

ITエンジニアの雇用は非常に難しく、雇用に失敗すると、エンジニアがスキル不足でプロジェクトで力を発揮できなかったり、逆にスキルを持て余してしまって、早めに辞めてしまう等のミスマッチが非常によく起こっています。これらのITエンジニア採用におけるミスマッチは、企業にとっても、エンジニアにとっても大きな損失になりうるので、可能な限り未然に防ぐ必要があります。
このようなミスマッチがなぜ起きるのか、またどのようにしたらそのミスマッチを防げるか についてみていきましょう。

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日本企業でのITエンジニアの数

それでは、まずは日本における、現在のITエンジニアの状況について見ていきたいと思います。冒頭で「ITエンジニアの採用は非常に難しい」というお話をしましたが、そもそも数が不足しているならば、どの企業でもエンジニアの採用は争奪戦になってしまい、有効な手だてが無い気がします。以下は、2015年~2019年までの各企業に対して、ITエンジニアが不足しているかどうかについて調査を行った結果です。

出典:IPA 独立行政法人 情報処理推進機構 社会基盤センター 『IT人材白書2020』P.34 2020年8月

出典:IPA 独立行政法人 情報処理推進機構 社会基盤センター 『IT人材白書2020』P.34 2020年8月
https://www.ipa.go.jp/files/000085255.pdf


これを見ていると、「大幅に不足している」と「やや不足している」を合わせると、およそ各企業の9割がITエンジニアが不足していると感じている現状が見えてきます。これが本当ならば、日本でのITエンジニアの数は他の国と比較しても少ないのでしょうか?

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世界のITエンジニアの数

それでは、日本が世界に比べて圧倒的にITエンジニアの少ない国なのかどうかを検証したいと思います。以下は、2020年3月のヒューマンリソシア調査の結果ですが、意外にも、日本のITエンジニアの数は、世界では4番目に多く、人口比から考えても、そこまで数が少ないとは言えない結果が見えてきました。

世界のITエンジニアの数

出典:【ヒューマンリソシア調査】[独自推計]『 2021版:データで見る世界のITエンジニアレポートvol.4 』 2021年9月
https://corporate.resocia.jp/info/news/2021/20210927_itreport04


この結果だけを見ると、日本だけが特別にITエンジニアが不足しているので採用が上手くいっていないという訳では無さそうです。また、日本はITに関しては、アメリカや中国と比較をして遅れをとっているという声をよく聞きますが、なぜそうなってしまっているかについて考えていくと、ITエンジニアの採用の問題の本質が見えてくるかもしれません。


それでは、日本、及び世界(特にアメリカ)ではどのようにITエンジニアを採用しているかについて眺めていきましょう。

日本とアメリカでのITエンジニアの採用方法の違い

それでは、日本とアメリカのITエンジニアの採用方法の違いについて見ていきたいと思います。皆様がITエンジニアであれば、新卒での採用を含めて、今まで複数回採用面接を経験されてきたかと思いますが、そちらを振り返って頂ければと思います。


日本の面接の場合、殆どの企業がITエンジニアの採用時にコーディングテストのようにそのエンジニアの力量を測定するテストのようなものは実行していないかと思います。日本の面接で聞かれる内容は、新卒であれば、協調性ややる気のような部分、中途採用であれば、今までの経験と、それが今後のプロジェクトにどのように役に立つかについて掘り下げていく、 という形が一般的かと思います。


日本の採用面接で重視している点は、どちらかというとコミュニケーションスキル等、候補者のソフトスキルに重点がおかれていると言えるかもしれません。

ITエンジニアの採用面接について

それでは、日本と対比をさせてアメリカのITエンジニアの採用面接について考えていきたいと思います。ここは特に筆者の海外マイクロソフトでの経験に基づいてお話をさせて頂きます。


アメリカ企業では、GAFAMのような企業を中心に、ITエンジニアの採用は非常に厳しく、そのエンジニアの力量を見極めるためにコーディングテストを課す企業が大半です。コーディングテストとはどのようなものかというと、面接官と一対一の形式で、面接官がホワイトボードにコーディングに関する問題を候補者に共有し、候補者がどのようにその問題に対してアプローチしていくかを見極めていきます。


その際に面接官が見ている観点は、単に候補者が問題を解けるかどうかだけではなく、どのように問題に対してアプローチを行っているか、コードは最適化されているか、実装したコードに対して、どのようなテストを行っているか等、多岐に渡ります。そのように幅広い視点から候補者を審査する事で、候補者がエンジニアとして、企業の基準に達しているか、徹底的に技術のスキルを炙りだす形の面接なので、当然ハードですが、採用後のITエンジニアの品質はかなりの割合で担保ができます。


日本企業でも、メルカリやLINE等の先鋭的な企業は、こういったコーディングテストを採用面接に導入し、高い効果を上げています。但し、まだまだ日本におけるITエンジニアの採用方法としてはマイナーな方法であり、ごく限られた一部の企業でのみ実施されているといった印象です。技術力のみがITエンジニアの採用に大切な視点では無いですが、この部分のアセットをきっちり評価していない事が、上述のITエンジニアの採用のミスマッチに繋がっている可能性は大きそうです。

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ITエンジニアの採用面接について

アメリカでのITエンジニアの採用

それでは、アメリカでのITエンジニアの採用方法について掘り下げていこうと思います。こちらを理解する事で、質の高いITエンジニアの採用が可能になる可能性があります。アメリカのITエンジニアの採用方法は主に以下の3つです。


  1. テクニカルスキルのアセットの評価
  2. コーディングテスト(または等価のテスト)
  3. ソフトスキルに関するテスト

以下に詳しく見ていきます。

テクニカルスキルのアセットの評価

こちらは、エンジニアのポジションを募集する際に、そのエンジニアの有するテクニカルスキルがどの位、今後のプロジェクト等に有益か評価をする作業で、求人票等に記述のある「Javaの経験XX年以上」「Pythonを用いた機械学習の経験」等の要件を、履歴書・職務経歴書(海外ではCVと呼ばれる)等から解釈をし、所謂、書類選考を行う作業です。


GAFAMのような有名企業は、応募者の書類の数だけでも相当な数になってしまうので、以下にここでいい候補者を見落としをしないように選考に上げるかが大事で、通常は、この仕事を専門に行うハイアリングチームが担当をします。


ITエンジニアのスキルはプログラミングスキル等、割と文章に書き起こす事ができるものが多いため、経験者が各候補者の書類を吟味すれば、ミスマッチは減らす事ができるものの、内容を理解するには、当然ドメイン知識が必要になります。

コーディングテスト(または等価のテスト)

テクニカルスキルのアセットの書類選考が通った後に待ち受けているのは、長くて回数の多いコーディングテスト(または等価のテスト)です。このプロセスは非常に厳しく、アメリカのITエンジニア向けに、コーディングテストをサポートするためのサイトや、企業が無数にある程です。


GAFAMのコーディングテストの流れは、書類選考を通った候補者に対して、まずは、1~3回程度のオンラインでのインタビューを行います。この時点で、候補者は画面を共有して、コーディングの問題を解く事を求められるのですが、この段階では、コーディングテストの内容は、かなり手加減をしたものになっているので、だいたいの候補者は次の選考に上がれるかと思います。しかしながら、書類を偽って書いていた候補者はこの段階で確実にふるい落とされます。


オンラインインタビューを通過した後は、オンサイトでのコーディングテストがまっていますが、通常は、丸一日かけて複数の面接官により、様々な観点からテストが行われます。このインタビューは内容もハードなのですが、何よりも長時間に渡って実施されるため、精神力との勝負にもなります。


テストの内容は、ジュニアレベルのエンジニアであれば、アルゴリズムやデータ構造等に関して確認を行うような内容が多く、コードの計算量の考え方等、普段の仕事ではあまり意識をしていない事項をしっかりと習得しておく必要があります。シニアレベルのエンジニアであれば、よりプロジェクトに即した内容がテストされる事が多いですが、それでもやはりコーディングテストは避けられません。


こういったコーディングテストは日本では一般的では無いと思いますが、コーディングテストを通じて、候補者の実際のスキルレベルを確認するだけでなく、問題に対するアプローチや、曖昧な点があったらしっかりと事前に確認を行っているか等、様々な観点が総合的に考慮されているため、このコーディングテストを通過すれば、自ずと良いエンジニアを採用する事に繋がります。

ソフトスキルに関するテスト

厳しいコーディングテストを通過し、ITエンジニアとしては十分に力がある事を証明できたとしても、チームとしてプロジェクトで仲間と働く上で欠かせないスキルは、コミュニケーションスキルやプロジェクトマネージメントスキル等の、所謂ソフトスキルと呼ばれるスキルで、当然ながらこちらも重要な項目です。


アメリカのITエンジニア採用時も、日本同様にソフトスキルに関する評価もありますが、インタビューの割合としては少なく、コーディングテストが5回あるとすると、ソフトスキルに関するインタビューは、1回あるか無いか程度です。実際はコーディングテスト中にも、前述の通り、候補者のコミュニケーションスキルや、プロジェクトマネージメントスキル、プレッシャーに強いか等、様々な観点をテストしているので、そこまでソフトスキルに関するテストは比重が高くないのかもしれません。

まとめ

日本、及び世界のITエンジニアのおかれている状況について説明を行い、日本とアメリカのITエンジニアの採用の方法の違い、特にアメリカでのITエンジニアの採用方法において、コーディングテストが重要視されていて、それがアメリカのITエンジニアの質の高さに繋がっている事について解説を行いました。


近年では、こういったアメリカ企業の行っているスキルの評価、及びコーディングテストをWeb上で自動化するサービス等が多く存在したり、この部分でAIの活用が試みられていたりします。


次回の記事では、このITエンジニアの人材採用という部分で、当社がどのようにAI活用を進めているかについて、当社の取り組みを掘り下げて紹介したいと思います。

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執筆者

江口 天

EGUCHI TAKASHI 江口 天

執行役員

株式会社クロス・コミュニケーション

東京大学大学院修了後、NTT研究所で暗号アルゴリズムの研究開発に従事。
その後、ヨーロッパに渡り、ドイツ及び日本のマイクロソフトで自然言語処理エンジニアとして活動。その後、カナダのスタートアップに関わり、日本語の音声認識のアプリケーションを開発。日本に帰国後、主に国内の大企業に対するDXコンサルティング・アドバイザリーサービスを提供する株式会社MDIUを設立。同社で人材マッチングを自動化するAI、Lichtの開発を行う。
2022年12月よりクロス・マーケティング・グループに加わり、DX・AI領域における高度な知見を基に、グループの事業全体のDX化の推進やAIを活用したビジネスモデルの変革について牽引。