
話題のアプリから読み解く、最新アプリマーケティング事例
コラム「アプリマーケティング戦略 最前線」では、顧客理解に基づいたアプリマーケティング施策と重要なアプリ指標についてご紹介しました。
モバイルアプリでは、買い物、金融、エンターテインメントに至るまで、多様なサービスが提供され、中でも、ユーザーニーズをとらえたものは、多くのユーザーにダウンロードされ、継続的に利用されています。ユーザーエンゲージメントの高いアプリでは、サービス自体の評価もさながら、アプリマーケティングに基づいた施策が実施されています。
本コラムでは、前回のコラムの内容を踏まえながら、様々な観点から評価が高いアプリの事例を元にアプリマーケティング施策のポイントを解説していきます。
目次
1.モバイルアプリ市場の現状
日々、新たなモバイルアプリが登場し、一人当たりのアプリ利用も増加傾向にあります。「アプリ市場白書2023」によると、1人が1ヶ月に利用するアプリは平均47個(2022年より6個増加)、1日のアプリ利用時間は平均5時間でした。
Androidで公開されているアプリのうち、月間アクティブユーザー数(MAU)を見てみると、MAUが10万以上のアプリはわずか4.1%、MAU1万以上10万未満は13.6%、そのほかの80%以上はMAU500以上1万未満のアプリが多くを占めています。このことから、大半のアプリは競争の激しいアプリ市場の中で埋もれてしまっている可能性があります。アプリのエンゲージメントを高めるためには、継続的なマーケティング活動が必要となります。
引用元:
フラー「アプリ市場白書2023」
2.アプリマーケティングの重要性
アプリマーケティングでは、ユーザーニーズにあったアプリを提供できているか、アプリの目指す目標が達成できているかを、様々なアプリの計測指標(KPI)をもとに検証していきます。これは、前回のコラムでも紹介しました。業界やアプリカテゴリー、ステージによっても指標が変わるため、PDCAサイクルを回して継続的に取り組む必要があります。指標をもとにしたユーザー理解を深めることで、よりよいサービスや施策につなげることができ、結果的にはユーザーエンゲージメントやサービス収益の向上につながります。
詳しくは、アプリマーケティング施策について解説したコラム「アプリマーケティング戦略 最前線」をご参照ください。
3.話題のアプリマーケティング事例
ここからは、実際にユーザーからの評価が高いアプリをいくつか取り上げていきます。評価の指標は様々ありますが、ダウンロード数やユーザーの利用率、満足度の高いアプリ等を多角的にご紹介していきます。
3-1.金融サービスアプリ
- PayPay(PayPay株式会社)
電子決済サービスを提供する「PayPay」は、登録ユーザーが6,600万人(2024年10月時点)を誇る、日本のキャッシュレスサービスの中でユーザー利用率が最も高いアプリです。決済店舗数が多いことや、アプリ登録者間で送金と受け取りができる利便性が支持されています。
サービス立上げ時に認知を上げるための施策として、支払い金額の一部または全額還元という大規模キャンペーン(2018年12月〜2019年3月実施)を行ったことが登録者数の増加につながりました。登録後に利用を促す仕組みとして、支払いでポイントがたまるキャンペーンやクーポンの発行を実施しています。しばらく利用がないユーザー向けには、マーケティング分析をもとにしたリテンション広告を打つといった方法も実施しています。リリース後も、登録者数の増加に伴うKPIの見直しをその都度図っているそうです。引用元:
PayPay
100億円あげちゃうキャンペーン
- Vpass(三井住友カード株式会社)
国内最大規模のクレジットカード会社である三井住友カードの「Vpass」アプリでは、クレジットカード、銀行、ポイント、電子マネーを一括で管理できるアプリです。アプリ限定サービスの「スタンプカード」(2023年2月で終了)では、500円以上のクレジットカードの利用でスタンプがたまることから、カードの利用回数が増えたそうです。たまったスタンプは、デジタルギフトを活用して、リアルタイムで電子チケットやギフトと交換できます。スタンプカードを提供することで、アプリの利用頻度の向上と継続利用につながりました。
引用元:
Vpassアプリ限定サービス「スタンプカード」
Vpassアプリ機能について
- D-Canvas(三菱UFJ信託銀行株式会社)
「D-Canvas」は、銀行業界初の企業型確定拠出年金(DC)の運用・管理アプリです。アプリの使いやすさと企業型DCを身近に感じられる点が評価され、2022年にはグッドデザイン賞を受賞しました。受賞のタイミングに合わせて、抽選のデジタルギフトプレゼントキャンペーンを実施することで、企業型DCに関心の低かった層にも認知を広げることができ、アプリダウンロード数とログイン数の増加につながりました。今後、アプリの機能を通じて、金融リテラシーの引き上げを継続して実施していく予定だそうです。
- マネーフォワード ME(株式会社マネーフォワード)
家計簿管理・資産管理アプリで認知度・利用率の高いアプリが「マネーフォワード ME」です。銀行・クレジットカード・証券・電子マネーなどと連携することで、複数の資産をまとめて管理することができます。
マネーフォワードMEでは、アプリストアの順位をあげるための施策としてASO対策を行っているそうです。ランキング上位のアプリを参考に仮説を立て、競合アプリとの比較や、キーワード最適化、クリエイティブ最適化などの施策を行い、順位変動の分析に活用されています。引用元:
マネーフォワード ME
3-2.ショッピングアプリ
- マツキヨココカラ公式アプリ(株式会社マツキヨココカラ&カンパニー)
「マツキヨココカラ公式アプリ」は、日本におけるEコマースアプリのダウンロード数(2024年第1四半期)が1位となり注目を集めました。店舗の利用でポイントがたまる会員証機能のほか、定期的に届くクーポン、ミニゲームやミッション達成で獲得できるクーポンなど、日々使うことでお得感を感じさせ、日常的にアプリを訪問させる仕掛けを備えています。
調剤サービス機能では、アプリから処方せんを事前に薬局に送ることで、少ない待ち時間で薬を受け取ることができるといった便利な機能もあります。買い物から薬の受け取りまで便利で幅広いサービスを備えていることが、LTVの向上につながっています。引用元:
マツキヨココカラ公式アプリ
- PAL CLOSET(株式会社パル)
アパレルブランドパルグループの公式アプリ「PAL CLOSET」は、ショップと顧客をつなげる接点として会員数の増加に寄与しています。ポイントがたまる会員証機能の他に、お気に入りのショップ情報、お得な割引情報、店舗在庫状況がリアルタイムで届き、気に入った商品はオンラインストアで購入することができます。
ショップスタッフによるコーディネートにも力を入れており、体形・身長・ライフステージ別の検索で、オンラインでもイメージしやすい仕組みになっています。また、アプリを開くと毎日1ポイント付与されることで、アプリ訪問率とMAUが向上しました。
アプリの行動分析では、お気に入り登録商品からの購入が多いことがわかったため、その商品の値下げや在庫数変動をプッシュ通知で知らせることで、購入確率の上昇につながりました。引用元:
PAL CLOSET アプリでお得簡単ショッピングアプリマーケティングに関するご相談はこちらから
3-3.フード・飲料アプリ
- 日本マクドナルド公式アプリ(日本マクドナルド株式会社)
「日本マクドナルド公式アプリ」は、2020年4月時点での累計ダウンロード数が6,600万を超えており、年代を問わず利用者が多いことが特徴です。「モバイルオーダー」では、注文から支払いまでをアプリ上でできるため、店内の席で商品をじっくり選び、並ばずに商品を受け取れるというメリットがあります。「マックデリバリー®」では、アプリ上でデリバリーの注文をすることができます。お店で使えるクーポンなどのお得な情報が毎日配信されるほか、ARコンテンツやモバイルオーダーでたまるスタンプカードもあり、アプリをお得に楽しんで使ってもらう機能が充実していることも、アプリのダウンロード数増加とアプリストアの高評価につながっています。
引用元:
日本マクドナルド公式アプリ
- Coke ON(コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社)
「Coke ON」アプリは、アプリ対応自販機での購入や様々なキャンペーン参加でスタンプが得られ、ドリンクチケットと交換できる「おトクで楽しい」アプリです。スタンプをためる楽しみとおトクな体験が、ドリンクアプリの中でトップクラスの6,000万というダウンロード件数につながっています(2025年1月時点)。
Coke ONアプリでは、顧客中心のCRMでLTVを最大化することを重視しています。そのため、顧客一人ひとりの理解を深めるデータ分析を行うことで、より良いサービス設計に活かしています。2016年からアクティブユーザーを増やすための施策として、「Coke ONウォーク」キャンペーンを開始しました。歩くだけでスタンプがたまりお得感を感じること、歩数を確認するためにアプリを開く機会が増えることなどから、アプリのアクティブユーザー増加につながる仕組みとなっています。引用元:
Coke ON
- TABETE(株式会社コークッキング)
「TABETE」は、食品ロス削減に貢献するアプリです。まだ食べられるのに廃棄される食べ物をフードシェアリングの仕組みを通じてユーザーとマッチングします。リリースから6年の2024年には累計登録者数が100万人を超えるサービスとなっています(2024年10月時点)。ユーザーはアプリ上で食品ロスになりそうな商品を検索し、引取時間を設定して決済、商品の受け取りをします。商品によっては割引価格で購入することができます。
マップ検索機能では、地図上でお店を探すことができたり、近くのお店をプッシュ通知でお知らせする機能もあります。ユーザーは累計購入金額によってポイントがたまり、レベルがあがります。たまったポイントは買い物に使うことができます。お得感とフードロスに貢献できることがアプリの高い評価につながっています。引用元:
TABETE
3-4.ユーティリティアプリ
- PLUG(株式会社STRACT)
「PLUG(プラグ)」は、ネットショッピングで最安値を比較できるショッピングアシストアプリです。ダウンロード数130万、ストア評価4.6の高評価を得ています(2024年10月時点)。アプリを入れておくと、対象ECモールの中から最安値を提示し、そのECサイトを閲覧することでキャッシュバックを得られたり、クーポン情報を受け取れます。
ユーザー獲得の施策として、初期の段階からSNSやTikTokを活用した広告配信、インフルエンサーの起用したプロモーションを実施しました。広範囲のユーザーへの認知を広げることができ、アプリダウンロード数の向上につながりました。また、カートに入れた商品が決済まで至らずサイトから離脱する「かご落ち」を防ぐため、離脱を検知するとプッシュ通知でお知らせし、再訪を促す対策を行っています。引用元:
PLUG(プラグ)
- My au(KDDI株式会社)
au公式アプリ「My au」では、請求額、データ残量、ポイントなどの確認から各種手続き、お問い合わせなどの各種サービス状況を一括で管理できます。直感的な操作性と情報が見やすいUI/UXが評価され、2022年にはグッドデザイン賞を受賞しました。アプリ画面は、利用頻度の高い機能をファーストビューへ配置し、目的到達までのステップは最小限にするなど、シンプルな情報設計となっています。
「メッセージでお問い合わせ」では、ショップに行かなくても24時間チャットで簡単に問い合わせができ、AIが素早く回答をするため、問い合わせ時間の短縮につながっています。
3-5.ヘルス・フィットネスアプリ
- Nike Training Club(株式会社ナイキジャパン)
ナイキジャパンのフィットネスアプリ「Nike Training Club」では、無料で多数のトレーニングプログラムが公開されており、レベルとスケジュールにあった自分だけのトレーニングプランをアプリが提案してくれます。その他にも、レシピ、睡眠、マインドフルネスなど、健康的な生活を送るための専門家によるアドバイスも充実しています。
また、トップアスリートやインフルエンサーとのトレーニングイベントを開催し、SNSを通じて発信することでアプリの認知度を上げています。
アプリでのトレーニング体験はユーザーとの接点となり、日々のワークアウトへの参加がユーザーエンゲージメントを高めることにつながっています。アプリの利用で、ブランドに対する顧客ロイヤルティも高まるため、アプリ利用者はECサイトや実店舗での購買も多いという結果につながっています。引用元:
Nike Training Club
- FiNC(株式会社 FiNC Technologies)
「FiNC」は、健康管理をサポートするアプリです。歩数・食事・運動・体重・睡眠・生理などのデータをアプリでまとめて管理することができます。データをもとに、AIトレーナーが一人ひとりに合わせたアドバイスをしてくれます。
健康を記録することでポイントが付与されたり、歩くことでガチャにチャレンジしてポイントがもらえるなど、楽しく続けられる仕組みがあります。記録を忘れると知らせる機能もあり、継続利用を促すしかけになっています。引用元:
FiNC
3-6.ビジネスアプリ(BtoB)
- GMO賃貸DX オーナーアプリ(GMO ReTech株式会社)
BtoBのアプリも拡がってきています。不動産オーナーアプリは、不動産管理会社とオーナーをつなぎ、管理業務をスムーズに行うアプリです。収支報告書や巡回点検報告書の作成など、これまで紙ベースで行っていた業務をアプリ上で管理できることから経費削減・業務効率化につながりました。チャット機能を活用することで、オーナーとのスムーズなコミュニケーションを実現しています。
2020年のサービス提供開始以降、機能や操作性についての改善を続け、2024年には利用オーナー数20万件を突破しました。幅広い年齢層のオーナーが見やすいようシンプルな設計にこだわり、必要な情報がすぐ手に入るといった使いやすいUIを実現したことでオーナーから高評価を得ています。引用元:
GMO賃貸DX オーナーアプリ
4.クロス・コミュニケーションの開発事例
- 取引アプリ「コネクト」(大和コネクト証券株式会社)
大和コネクト証券の取引アプリ「コネクト」は、投資や資産形成をサポートするアプリです。デジタルネイティブ世代に向けた、親しみやすいデザイン性と直感的な操作性が評価され、2023年度グッドデザイン賞を受賞しています。投資初心者でもわかりやすく、最適なUI/UX実現のために、ユーザーテストを実施して顧客理解を深めています。
ユーザーのアプリ利用継続の仕組みとして、毎月の手数料無料クーポンの配布やポイント投資、まいにち投信など投資未経験者でも楽しみながらコツコツ続けられるようなコンテンツを揃えています。
また、J.D. パワー ジャパンが実施した「2024年個人資産運用顧客満足度調査℠」のスマホ専業証券部門においても、3年連続で総合満足度ランキング1位を受賞しています。引用元:
大和コネクト証券 ~ひらけ、投資。~
コネクトアプリ 事例紹介インタビュー
5.まとめ
ここまで、アプリマーケティングの事例についてご紹介してきました。
ご紹介した事例のように、利用者からの評価が高いアプリには、顧客ニーズをとらえた検討や適切な施策が実施されていることが多く、その都度、PDCAが実行されています。アプリマーケティングに基づいた運用を進めることで、よりユーザーエンゲージメントの高いアプリへと進化することができます。
クロス・コミュニケーションでは、豊富なアプリ開発と運用実績から、総合的なアプリマーケティングの支援が可能です。是非、お気軽にお問い合わせください。
