2024年のITトレンドを振り返る

2024年のITトレンドを振り返る

今年も様々な分野で革新的な技術やテーマが生みだされ話題となりました。急速な進化を遂げるIT業界においてはいうまでもありません。

今回のコラムでは、2024年を振り返り、話題となったITトレンドや来年も注目されるであろうテーマについてご紹介していきます。

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1.2024年の振り返り

2024年も残すところあとわずかとなりました。夏にはパリでオリンピックが開催され、選手の健闘に活力をもらった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
一方、年明け早々に起こった石川県能登半島での地震は自然災害の恐怖を目の当たりにし、夏に続いた猛暑日や豪雨被害などの異常気象も、気候変動を体感する出来事として記憶に強く残る年となりました。

今年は、ビジネス領域において生成AIの活用が進み、様々な分野でのDXや効率化を促進するツールとして導入する企業も急激に増えました。日常の生活の中で生成AIのサービスに触れる機会も出始めました。このような生成AIブームの高まりを受け、10月に行われたノーベル賞の発表では、ノーベル物理学賞と化学賞でAI関連の研究が受賞する結果となりました。

また、大規模なサイバー攻撃も多く発生しました。攻撃を受け、関連会社や取引先などを通じて被害が広がるケースが見受けられました。更なるセキュリティ対策の強化が求められています。

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2.2024年のキーワードを解説

2-1.生成AI・AI関連ビジネス

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  • マルチモーダルAIの進化

    2023年末に発表されたGoogle社の「Gemini」、OpenAI社の「GPT-4」などをはじめ、今年は身近に使える生成AIツールが話題となりました。マルチモーダルAIとは、テキスト、音声、画像など、複数の情報をまとめて扱えるAIのことで、データの処理能力が大幅に上がったことで、テキストから画像を生成したり、動画や音声データと組み合わせて認識することも可能となりました。

    マルチモーダルAIは人間の五感に近い感覚を持つことから、今後も自動運転技術や産業用ロボット分野でも活用の広がりが期待されています。

  • 国産生成AIビジネスが始動

    生成AI分野では、これまでOpenAI社をはじめGoogle社、Meta社など海外のビックテックが牽引してきましたが、今年は国産生成AIのリリースが相次ぎました。KDDI社の「ELYZA」、NTT社の「tsuzumi」、NEC社の「cotomi」など、大学やスタートアップ企業、大手企業などで開発が活発化しています。
    日本で独自に開発されたモデルは、日本語の自然言語処理に特化して開発されているため、より精度の高い結果をだすことが期待されており、今後、生成AIに関連する市場規模はより拡大していくと見られます。

  • AI拡張型開発による業務効率化

    AI拡張型開発とは、生成AIやAIによってアプリケーションの開発、テスト、コーディングを支援する開発手法です。ツールとしては、「Cursor」や「GitHub Copilot」などがあります。
    ソフトウェア開発に生成AIを取り入れることで、業務の効率化や生産性の向上につながるとされており、2023年から業務に取り入れたサイバーエージェント社、LINEヤフー社によるとコーディング業務の削減に1~2割の効果があったとされています。
    Gartner社の予測によると、2028年までにソフトウェアエンジニアの75%がAIを利用すると見られています。

  • インテリジェント・アプリケーション

    インテリジェント・アプリケーションとは、システムにAIを組み込むことで、与えられた情報から学習、改善して精度を上げていくソフトウェア・アプリケーションのことです。手作業による時間の削減と人為的ミスの削減のほか、ユーザーが興味を持つ情報を学習して提示することもできます。既にクレジットカードの不正行為検出システムや購買商品のおすすめ機能など身近なところで活用されており、インテリジェント・アプリケーション市場は今後も拡大していくと見られています。

    AI分野については、当社でも幾度かコラムで取り上げさせていただきました。
    詳しく解説しておりますので、併せてご覧ください。

    関連コラム

    「ビジネスシーンにおける生成AI活用事例」

    「生成AIを社内向けにカスタマイズして活用するには?」

    「AI同士が会話をしながらアプリを生成するフレームワーク(AutoGen)とは?」

2-2.インターネット環境・通信環境

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  • 衛星インターネットサービスの拡充

    衛星を利用したインターネットサービス「Starlink」や「Kuiper」が話題となりました。SpaceX社は既に6,000機もの衛星を打ち上げており、サービス提供範囲の拡大や安定した通信に力を入れています。日本では、KDDI社やソフトバンク社がSpaceX社と連携し、2022年から「Starlink Business」を提供していて、今後もサービスが拡充するとみられています。2025年にはAmazon社と連携したNTT社とスカパーJSAT社で、「Project Kuiper」のサービスが開始となる予定です。
    衛星インターネットを利用することで、従来電波の届かなかった山間部や海上での利用も可能となります。2024年1月に発生した、「令和6年能登半島地震」では被災地域にKDDI社とソフトバンク社からStarlink機器が無償で提供されたほか、自衛隊など被災地の救援にも役立ちました。

  • Web3.0 分散型インターネットの運用

    Web3.0は、現在の巨大プラットフォーマーによる中央集権的なインターネット環境の管理から個人がデータを分散して管理することを目指す「次世代の分散型インターネットの時代」という概念です。暗号資産等のトークンを媒体として個人間での「価値の共創・保有・交換」を行うことも可能となります。
    Web3.0を実現するための仕組みの一つとして、「DAO」=Decentralized Autonomous Organization(分散型自律組織)という組織形態が注目されています。これは、特定の所有者や管理者に依存せず、参加者が暗号資産を持ち、組織の意思決定に参加して組織運営をしていく仕組みです。高い透明性があり、より民主的な運営ができると考えられています。
    2024年には、地域課題に悩むコミュニティや地方創生に取り組む自治体がDAOを導入し、トークンやNFT(非代替性トークン)を活用して課題解決に取り組むプロジェクトが始まりました。渋谷を起点にした実証実験「Local web3 Lab.@渋谷」では、2024年2月から「おさかなだお長崎」を始動しました。インターネットを通じてDAO参加者をつなぎ、長崎の漁業が抱える地域課題の解決を目指し、漁業を盛り上げていく取り組みを進めています。今後の動きにも注目が集まっています。

  • デジタルツインを活用した実証実験

    デジタルツインとは、IoT機器などを活用して仮想空間に双子(=ツイン)の環境を再現する技術のことを言い、仮想空間でシミュレーションや分析を行い、それを現実空間にフィードバックする仕組みです。スマートシティが進む自治体を中心に3Dデータを活用した街づくりが進められています。
    静岡県では、デジタルツイン「VIRTUAL SHIZUOKA」を作成し、今後想定される南海トラフ地震や富士山噴火といった災害に対して、住民に被害の想定範囲を仮想空間で体験してもらい避難経路の確認や避難意識を高めようとしています。
    千葉市では、2024年10月からデジタルツインで再現した「バーチャル幕張新都心」で、自動運転技術の実証実験を開始しました。公道での実験は安全性の担保などの課題がありましたが、バーチャル空間を活用することで様々なシミュレーションが可能となり、自動運転技術の向上につながるとみられています。

  • ガバメントクラウドへの移行

    政府とデジタル庁は、デジタル改革の一つとして政府共通のクラウド環境であるガバメントクラウドの整備を進めています。政府と自治体が共通したクラウドサービスを利用することで基幹業務システムを統一し、業務の効率化、コスト削減、安全性の確保を目指しています。すべての地方公共団体に対して、2025年度までにガバメントクラウドへの移行が求められています。
    サービス提供会社として、「Amazon Web Services」「Google Cloud」「Microsoft Azure」「Oracle Cloud Infrastructure」と、国産の「さくらのクラウド」が対象となっています。

2-3.サイバーセキュリティ対策

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  • 大規模サイバー攻撃の増加

    昨年に引き続き、2024年もサイバー攻撃が増加の一途をたどっています。被害の傾向として、ランサムウェアによる企業や自治体の脆弱性を狙った大規模な攻撃が多く発生しました。8月にはKADOKAWA社を狙ったサイバー攻撃で25万件もの個人情報が流出し、関連会社にも被害が及びました。その他にも、政府機関や民間企業のWebサイトを狙ったDDoS攻撃により、閲覧障害が発生する被害もでており、セキュリティ対策の強化が不可欠となっています。

  • 注目のセキュリティアプローチ CTEM

    セキュリティアプローチとして注目されている「CTEM」=Continuous Threat Exposure Managementとは、企業がサイバーセキュリティリスクを5つのステップに可視化し、継続的に監視と管理を行うというGartner社が提唱しているアプローチ方法です。継続的にセキュリティを強化することで、未知の脅威を含めた潜在的な脅威に対応することが可能となります。
    Gartner社によると、この手法に基づいたセキュリティ投資をすることで、セキュリティリスクを3分の2減らせるようになるとのことです。年々増加するサイバーセキュリティリスクに対して、今後も重要視されていく手法だと考えられます。

2-4.DXの推進状況

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  • 物流2024年問題とIoTの活用

    物流業界では2024年4月から施行された働き方改革法案と急拡大するECビジネスによって人手不足が深刻化しており、モノが運べなくなる可能性が指摘されてきました。国の試算では何も対策を行わない場合、営業用トラックの輸送能力が2030年には34.1%不足する可能性も指摘されています。この状況の改善に倉庫・配送の双方で自動化、機械化、デジタル化が進められ、その中でIoTを活用する動きがでています。
    IoTは、モノとインターネットが接続されることにより、モノから集められたデータにより最適な状態に制御できる仕組みのことです。既に、「RFID」=Radio Frequency Identification(商品データの読み取り技術)、「WMS」=Warehouse Management System(倉庫管理システム)、「TMS」=Transport Management System(輸配送管理システム)などがあり、工場や倉庫での業務改善が期待されています。

  • プラットフォーム・エンジニアリングで開発者の負担軽減

    IT業界では、ソフトウェア開発の現場におけるクラウドの普及やIT人材の不足、スピーディーな開発需要により開発者の業務負担は増加しています。この問題に対するアプローチ方法がプラットフォーム・エンジニアリングです。まず、専門のプラットフォームチームが設けられ、内部開発者プラットフォーム(IDP)をつくります。IDPでは、開発者の作業に必要な基本ツールを提供して開発者をサポートします。開発者はインフラを気にせずにアプリケーションの開発に集中することができるため、業務時間の削減や生産性の向上にもつながります。
    Gartner社は、大規模なソフトウェアエンジニアリング組織の80%は、2026年までにプラットフォーム・エンジニアリングチームを立ち上げると予測しています 。

  • GX実現のためのDX

    最近の気候変動問題や温室効果ガス排出の削減の高まりから、GX(グリーントランスフォーメーション)という言葉が浸透してきました。GXとは、化石エネルギー中心の産業・社会構造をクリーンエネルギー中心の社会に変革するための取り組みで、具体的にはCO2排出量をゼロにしたり、再生可能エネルギーを導入することなどが挙げられます。これらを実現する手段としてDXが必要となります。DXにより、デジタル技術を活用した業務変革アプローチが可能となります。
    GXに取り組むことは、温室効果ガス排出の削減のほかにも、企業のイメージアップや環境に配慮している企業へのEGS投資の呼び込みにもつながっていきます。

  • 国のGX推進方針

    日本政府は、GX推進のために今後10年間で長期にわたり50兆円超の官民投資をするとしています。規制や法整備とともに、「GX経済移行債」により20兆円規模の国債を発行し、排出削減を促進する分野への投資、再生可能エネルギー導入支援などを順次進めると計画しています。GXリーグにおける、GX ETS(GHG排出量取引制度)も試行段階で開始しており、本格稼働する2026年頃には排出量の規制が強化される可能性があります。さらに、金融機関が投資をする際にESG(環境・社会・企業のガバナンス)を考慮するサステナブルファイナンスの市場環境整備を進めることで、国内外の金融機関からの投資を呼び込もうとしています。大規模な投資による支援が、今後様々な分野で新技術の開発やGXの推進につながることが予想されます。

    引用元:
    経済産業省:GX実現に向けた基本方針 参考資料

  • DX人材の育成

    DXの推進には、DXに対応できる専門の組織や人材が不可欠となりますが、多くの企業でDX人材の不足が指摘されています。DX人材は、採用によって新たに確保するほか、外部の専門家を活用したり、社員を育成プログラムや研修によって育成する方法もあります。
    政府は、デジタル推進人材を2026年度までに230万人育成することを掲げ、DXに関する知識やスキルの指針をまとめた「デジタルスキル標準」を公表しています。成功するDXには、DX人材の育成が必然と言えます。

3.2025年の動向予測

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ここまで、2024年のいくつかの大きな動きについて取り上げてきました。ビジネスや私たちの生活を大きく変えるトピックとして、やはり生成AIの活用が広がったことは非常に大きな変革となりました。つい先日、Gartner社の2025年のテクノロジートップ・トレンドも発表されたばかりですが、2025年に予測されていることをいくつかピックアップしていきます。

  • 大阪万博の開催による新たな技術の認知拡大

    日本では、大きなイベントとして、4月から開催される大阪万博が予定されています。大阪万博では、AI(人工知能)、ロボティクス、バイオテクノロジーなど最先端テクノロジーが展示・実用化され未来の生活を体感できるようです。会期中は、AIロボットを活用した社会の体験や、自動運転の実証実験、GX技術の実装のほか、会場への入場管理と店舗決済に顔認証技術が導入されます。新たな技術の実用化が身近になり広がっていくきっかけにもつながりそうです。

  • 生成AIのハイプ・サイクル

    生成AIの分野では、Gartnar社は2027年までに生成AIの40%がマルチモーダル化すると予測しており、複数のデータを一度に処理できることから、今後も新たなサービスがリリースされ、人間のタスクをより広範囲でサポートすることが期待されています。また、同社の提唱する「ハイプ・サイクル」では、現在は、「黎明期」、「過度な期待」のピーク期を経て、人々がコストなどのデメリットに気づき始める「幻滅期」に入っていると指摘しています。今後、「啓蒙期」、「生産性の高原」を過ぎることで、商業的に普及し実用化されると予測されています。

    引用元:
    Gartner社:「生成AIのハイプ・サイクル:2024年」

  • 生成AIの国際的なルールづくり

    生成AIを安心・安全に使うための国際的なルールづくりも進んでいます。昨年のG7広島サミットでの「AIプロセス」を受け、各国で人の生命や人権に関わるAI利用への規制や法整備などが進められています。2024年8月には欧州で「欧州(EU)AI規制法」が発効され、順次適用される見込みです。日本では、2024年4月に「AI事業者ガイドライン」が発表され、8月からは法規制の議論が進められています。今後、国際的なルールを受け、日本でも新たな法規制が設けられる可能性があります。

  • ブレインテックの普及

    ブレインテックとは、人間の脳とテクノロジーを組み合わせた技術やサービスのことです。ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)とは、人間の脳とIT機器をつなぐ技術のことで、機械を用いて脳波を測定・解析することで、集中や興味関心などの人間の脳の状態を理解します。医療分野、マーケティング、教育、認知機能の向上などの分野で活用が見込まれています。
    ヘッドホンやイヤホン形状の脳波デバイスも開発されており、脳波の状態や心拍数を測定することでストレス軽減や集中力の維持、睡眠の向上を目指しており、このような商品は今後増えてくると予想されます。
    Gartner社は、2030年までに、ナレッジ・ワーカーの30%は、AIが台頭する職場での存在意義を保つために、雇用主負担か自己負担かを問わず、双方向ブレイン・マシン・インタフェース(BBMI)などのテクノロジによって強化され、それに依存するようになるとしています。

    引用元:
    Gartner社:「2025年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド」

  • エネルギー効率コンピューティング

    AIは膨大な情報処理のために大量の電気を消費します。生成AIの普及により今後さらなる電力消費が懸念されています。電力の大量消費は炭素排出量を押し上げる要因として社会の持続可能性にも影響を及ぼしています。
    今後の更なる電力の大量消費に備え、エネルギー効率の高いコンピューティングのニーズが高まっており、電力消費を抑えた省エネルギーコンピューティングの開発が進められています。Gartner社は、光学、ニューロモルフィック、新型アクセラレータなどの分野で新たなコンピューティング・テクノロジの開発が進むと予測しています。

    引用元:
    Gartner社:「2025年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド」

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4.まとめ

2024年のITトレンドの振り返りから、複数の分野で技術や考え方が進化し続けていることをみてきました。特に、生成AIの技術やキーワードは各分野との関連性も高く、人々の関心も高い傾向にあると言えるでしょう。今回取り上げたキーワードは来年もトレンドとして上がってくる可能性があり、その動きが私たちの生活やビジネスにどう関わってくるか注目です。

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執筆者

株式会社クロス・コミュニケーション編集部

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