いまさら聞けないCRMの基礎知識①~江戸時代から続くCRM思想と現代だからこそ直面する壁とは?~
EC市場が拡大し、競争が激化する中、「CRMに活路を見出したい」という声を数多くいただくようになりました。このコラムでは、CRM( Customer Relationship Management)を活用したマーケティングを推し進める上で大切なポイントを、分かりやすくご紹介します。
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CRMとは?
CRMとはCustomer Relationship Management (カスタマー リレーションシップ マネジメント) の略ですが、その内容についてはさまざまな解釈が存在しているため、まず言葉の定義を揃えておきたいと思います。
私の考えるCRMは、顧客を見極め、顧客ごとに適切なアプローチを行うことで、長期的に良好な関係を構築・維持することによって顧客満足度を高め、その結果として収益が最大化するという「仕組み」と捉えています。広義ではそのためのツールやシステムを意味することもありますが、このコラムではそちらは含まず、「収益を最大化するという仕組み」をCRMと定義します。
最近のBtoCやDtoCビジネスでは「収益の最大化」を「LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の最大化」として、重要指標のひとつと位置づける企業が増えています。
一方で、江戸時代には顧客情報を管理する手段として大福帳が用いられてきました。つまり、顧客を大切にしながら顧客との取引を管理することで、顧客の要望に応じた提案を行い、商売を拡大することは、現代に始まったことではないということです。
それではなぜこの現代においてCRMが再注目されているのでしょうか?
それには3つの理由が考えられます。
- ニーズ・顧客行動の多様化
- 新規顧客獲得 < 既存顧客維持
- デジタル化の加速
ニーズ・顧客行動の多様化
1つ目の理由は顧客のニーズ、行動が多様化している点です。
インターネットが普及し、いつでもどこでも情報が得られる社会になったことで顧客ニーズが多様化しています。さらに、消費者一人ひとりが欲しい商品が異なり、その情報を入手する手段も多様化しています。
大衆をターゲットにしたマスマーケティングに対し、顧客一人ひとりに最適なモノを提供するマーケティング手法をOne to Oneマーケティングと呼びますが、そのOne to Oneマーケティングを成功に導くためには、顧客情報の詳細を管理し、分析することが重要となります。さらに、この顧客中心のビジネスで結果を出すためには、既存顧客へのきめ細やかなフォローがとても大切で、CRMが注目されるようになりました。
新規顧客獲得 < 既存顧客維持
2つ目の理由は、新規顧客獲得よりも既存顧客維持がビジネスの成功において重要度を増してきたからです。新規顧客獲得にかかるコストは、既存顧客維持にかかる費用の5倍と言われています。さらに、売上の80%は上位20%の顧客によってもたらされる(パレートの法則)とされており、5倍の費用をかけて獲得した新規顧客よりも、既存顧客がもたらす売上の方が何倍も大きいのです。これは人口とも相関がありますので、CRMによって既存顧客維持に注力することはもはや絶対条件とも言えます。
デジタル化の加速
デジタル化が進み、顧客とのコミュニケーションは対面に限らずさまざまな方法で行われるようになりました。一人ひとりの顧客に対して適切な対応を行う上で、顧客に関する情報をどれだけ把握できているかが重要ですが、その情報の取得方法、管理方法もデジタル化が急速に進んでいます。
しかし、なぜデジタル化が加速するとCRMが必要とされるのでしょうか。それは、CRMの概念に基づいて顧客管理をすることで、既存顧客からの売上の向上に加え、予算配分や業務効率化などの多くのメリットが生まれるからです。
なぜCRMが常識にならないのか?
CRMがさまざまなメリットをもたらすことはご理解いただけたかと思います。
”良いこと尽くし”にも関わらず、CRMへの取り組みがまだまだ定着していないと言われるのはなぜでしょうか?
その理由は、以下の4つの課題に分類できます。
課題1 データを扱い切れない
課題2 顧客の動きを把握できない
課題3 業務過多で手が回らない
課題4 PDCAを回せない(人手不足・ノウハウの欠如)
【課題1】データを扱い切れない
1つ目の課題は、膨大な量のデータを扱い切れないことです。
先ほどお話したデジタル化の加速が、むしろネックになっているのです。
例えば、ECでは会員情報や行動ログ、商品データ、購買実績など、さまざまな数値が蓄積されます。データを活用し尽くせばマーケティングの幅は広がりますが、データ量が膨大になりすぎて部分最適に留まってしまうという弊害も発生しがちです。
また、CRMに取り組むにあたり、どのようなデータが必要なのか、自社ではそれらのデータがどのように取得・管理されているのか、分散しているデータをどのように取りまとめればいいのかといったデータマネジメントの初期段階でつまずいてしまうケースも珍しくありません。
【課題2】顧客の動きを把握できない
2つ目の課題は、顧客の動きを把握できない、つまり課題設定ができないケースです。
CRMの第一歩は顧客理解です。顧客理解ができていなければ、最適なアプローチを描くことができません。 課題設定のためには現状分析が欠かせませんが、集計と分析を混同されているケースを多く目にします。
デジタル大辞泉によると、2つの言葉の意味は異なります。
集計:数を寄せ集めて合計すること。また、その合計した数 。
分析:複雑な事柄を一つひとつの要素や成分に分け、その構成などを明らかにすること 。
『 デジタル大辞泉 』 小学館
集計で分かることは、ひとことで言うと「現状把握」です。物足りないように聞こえるかもしれませんが、まずは「集計」を通して「現状を正しく把握する」ことが大切です。
知識や経験が求められる「分析」は、その後の指針を決める重要な要素となりますので、専門家に相談することを強くお勧めします。
【課題3】業務過多で手が回らない
3つ目の課題は、担当者が日々の業務に追われCRMに手が回らないことです。
マーケティング担当者の担当領域はますます広がっています。データ集計は単純作業と思われがちですが、その負担は計り知れません。本来やるべき業務に手が回らないのが実態ですが、経営層と現場でその認識にギャップがあることも大きな問題です。
【課題4】PDCAを回せない(人手不足・ノウハウの欠如)
4つ目の課題は、施策のPDCAサイクルを回せないことです。
いくら仕組みを考えても、それを実践できなければ文字通り絵に描いた餅です。 人材不足やノウハウの欠如が主な原因になりますが、「そもそもどこから手をつけたら良いのかが分からない」といった優先順位付けに苦慮されている担当者が多くいらっしゃいます。これについても、経営層と現場で認識のギャップが生まれがちです。
この4つの課題をうなずきながら読まれている方は多いかと思います。 CRMを「実施していない」のではなく「実施できない」というのが実情で、それがCRMが常識にならない(=なれない)理由そのものなのです。
CRMをいち早く実施するためには?
では、これらの課題を”いち早く”解決するにはどうすればよいのでしょうか?
CRMに取り組めるようにリソース(ヒト・モノ・カネ)を投入すればよいのでしょうか?
自社内のECデータを取りまとめられるように専門家を採用すればよいのでしょうか?
専門部署を作り、ノウハウが溜まるまで待てばよいのでしょうか?
正解かもしれませんが、誰もができる方法ではありません。
「短期的な成果を期待していたものの実践できず、CRMに対して会社全体が否定的な空気になってしまった」というお話も耳にします。確かにCRMは中長期的な視点で収益への貢献を考えていく必要がありますが、誰もができて、かつ短期的に成果を上げる方法はあります。
それは、経験に基づいた実例を活用することです。ゼロベースでなければ、先の4つの課題を解決する突破口になり得るかもしれません。
- データ分析による現状把握
- 検証環境の構築
- 施策の実行
この3つを実践すれば、瞬間的にCRMの成果を体感することができるでしょう。
次回は、この3つの取り組みについてお話します。
まとめ
いかがでしょうか。
「お客さまのことを知りたい」という思いは、江戸時代の大福帳にも現代の顧客管理にも共通して表れているように思います。
デジタル化が進んだ現代、顧客に関するデータは幅が広がり、深みが増しています。それは留まることなく、ますます進化します。一方で、そのデータの活用方法がうまくいかず、CRMが推進できないケースは少なくありません。
「なぜCRMが常識にならないのか?」にひとつでも当てはまる項目があれば、まずはその解決から始めましょう。
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